心の健康について

昨年の4月から、久しぶりに中学校のスクールカウンセラーをしています。 勤務校の保健委員会で”心の健康”について話すように求められました。
これから人生のスタートを切っていこうとしている中学生たちに、何をお伝えすればいいのか相当悩んだ末、何冊もの本を参考にしながら、私なりのレジュメを作りました。

1 思春期(児童期から成人期へと移行する中間の時期)の特徴

  • 身体的にも精神的(心理的)にも不安定な時期→急激な身体的変化への戸惑い
  • 反抗と依存の入り混じった状態(親から距離を取りたいが、不安でもある)
  • 抽象的思考力が発達するとともに、自分の内面にも意識が向き始める
  • なぜ、気持ちの揺れが大きくなるのか → 脳の中での変化。脳は、簡略化すると2層構造をしている
  1. 中心部分の古い脳(命の維持) → 食、睡眠、自律神経、感情・情動、性
  2. 周りの新しい脳(人間らしい活動) → 知識の記憶、抽象的(複雑)な思考
  • 思春期は、性に関わる精巣や卵巣から性ホルモンの分泌が活発になり、男女の体に特徴が出てくる。そのため、同じように、ホルモンの指示で自律神経系を管理している部分が影響を受けて、貧血や起立性調節障害が起きやすくなる。(朝起きにくい、立ち眩みがする、午前中やる気が出ない等)。また、感情に関わる部分も影響を受けるので、イライラしやすかったり、ムカついたり、ハイになったかと思うと、急に落ち込んだり気持ちが不安定になりやすい。
  • 社会の中での位置づけ⇒体は大人へと近づいているのに、社会的には未熟。自分探しに苦しむ。

2 思春期の心身の変化は、個人差が大きい⇒なぜ、個人差(個体差)があるのか

  • 地球が生まれたのは約46億年前、生物が現れたのは約40億年前。当初、生き物は自分をコピーしながら増殖していた。やがて、進化の中で、遺伝子を混ぜ合わせる仕組みを取り入れるようになる。生命の歴史の中で原始的な哺乳類が現れたのは、2億5千万年前。人類の出現は、約500万年前から。
  • すべての人間の体の中に、このような生物の進化の歴史が刻み込まれている。(命のリレー)
  • 私たちの命の始まりは、数億個の中から選ばれた一個の精子と卵子が合わさった受精卵。受精卵には、親から子へと伝えられていく遺伝情報が詰まっている。(暗号のように畳み込まれた情報が、私たちの姿かたちや性質=形質、を決めている。)体を形成している35兆個の細胞のすべてに、遺伝子が入っている。しかも、一卵性双生児を除いて、同じ遺伝子の人はいない。私たちは自分の体の中に、自分だけの設計図を持っている。遺伝子から見ると、すべての人は世界にたった一つの取り換えようのない命。いろんな人々がいることで、人類は豊かになってきた。
  • それぞれの発達の微妙な違いは、遺伝子に書き込まれていることなので、他人と比べても意味がない。(自分の体なのに、とても不思議⁈)「みんな違ってみんないい!」

昔からの諺(ことわざ):「唯我独尊」

一人ひとりはこの世で唯一の存在で、尊い使命を持っている。唯一無二。

変えられることを変える勇気を 変えられないことを受け入れる平穏を
そして、変えられることと、変えられないことを知る英知を授けたまえ
(ニーバーの言葉)

3 不安・ストレスへの対処法⇔自分の気持ちとの向き合い方

初めに…

全能感の中にいる子どもは悩まない。成長とともに、周囲のことや現実が見えてくる。そうなると、思ったり願ったりすることと現実とのギャップに気づくので、悩んだり、ストレスと感じることが増えていく。身体は風邪をひいたり、熱を出したり、いろいろな病気をすることで、抗体ができて、丈夫になっていくように、こころも、悩みを潜り抜けることで、だんだん打たれ強くなっていく。

こころをコップに例えると、心のコップは、「腹が立つ・悔しい・悲しい・つらい・自分はダメだ…」などの気持ちをある程度はためておくことができる。しかし、心のコップが容量オーバーになったとき、バーンと爆発して中身がとびだす。「キレる」状態。相手や、自分自身を傷つけていく。

対処法1

  1. 気持ちを外に出す→言葉で表現する。誰かに話して聴いてもらう。ノートや日記にかく。自分だけの秘密の「コンチキショ」漫画を描く。
  2. 同じものでも、見方によって見え方が変わってくることを知る。性格の長所は短所、短所は長所。
  3. 一つの考えが、頭から離れない時、意識して別のことをやってみる 。 体を動かす。入浴。料理を作る。音楽を聴く。歌う。ゲームをする…
  4. 自分で自分を応援する⇒一人時間を持つ・独り力を鍛える。 心の中で好きな言葉を唱える。または心の中に理解者を作ってその人に励ましてもらう。
  5. 「イライラ虫・ストレス虫・ムカムカ虫」などと名付けて、話しかけてみる。 出て行ってくれなさそうなら、かけた陶器を袋に入れて、思いっきり割る。
  6. 自律訓練法⇒目をつぶり、ゆっくり鼻から息を吸い、10秒かけて吐き出す。(等々)

対処法2

イライラの理由が、自分でもはっきりわからないこともある。漠然とした不安。また、人間関係で悩みをかかえやすいのは、生まれつきの遺伝の影響によるものだけではなく、「考え方の癖」もある。事柄に対し、「あいつのせいだ・自分のせいだ」と捉える傾向等など。 自分自身が生きやすくなるように、考え方や行動の癖を取捨選択しながら修正していく。

終わりに…

ストレスとの向き合い方や、解消法は人によって違うし、年代によっても違う。
疾風怒涛(しつぷうどとう)の荒波に溺れそうになった時は、ためらわずにSOSを出して浮き輪につかまること。
(親・先生方・養護教諭・カウンセラーなどに相談して、一緒に考えてもらう)
嵐の後には穏やかな凪(なぎ)が必ずやってくる。いつかは広々とした大海原にでて、のびのびと泳いでいる自分の姿を想像してみよう……。

太陽・星・月・木々・山々・雲…など、大自然(宇宙)とも友達になりながら、
自分に授けられた いのちの時を、生きよう❣